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WebマガジンVol.1【創刊号】 画像鑑定の実際/医療係争事件簿/最近の医療行政と病院のトピックス

この記事の公開日:2012年08月12日

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メディカルリサーチ WebマガジンVol.1(創刊号)

【今号の目次】

・医療係争事件簿
・画像鑑定の実際
・最近の医療行政、病院のトッピックス

【シリーズ】医療係争事件簿

温泉での死亡事例

熱海の老舗温泉山崎郷には遠く新島を望む大浴場がある。湯船というか、大小様々な形をし、湯温も様々で気泡浴などが楽しめる形で、そうしたものが10以上もある大浴場である。
その中で最も眺めのよいと思われるのが、窓際に楕円状に拡がる岩風呂である。どこかの湖を模したのか、真ん中には中島を設え、それを中心にぐるりと一周することも出来る。立って歩いても、両手を突いて足を浮かせながらでも。
平成22年のお盆明け、神奈川県では旧暦の8月13日からが一般的なお盆とされる中、8月16日、このホテルを訪れた初老の夫婦に悲劇が襲いかかった。夫の入浴死である。
 前日は、箱根湯本の温泉に泊まり、緑を楽しんだため、今度は海を見たいという妻の希望もあり、大海原が望める熱海にしたのだ。
 夕方宿に着いた二人は、部屋でお茶を飲み、夫が一足先に大浴場へと向かった。
 まだ、誰もいないだだっぴろい開放感と、源泉掛け流しの贅沢な湯気空間に一人極楽を見た思いで趣の異なる湯船をハシゴしたようだ。
部屋を出てから小一時間、フロントから部屋に一本の電話が入った。すぐ下に来て欲しいと・・・・。

※写真はイメージです。
妻美子が何事かと急ぎ駆けつけると、男子脱衣場には救急隊とホテル関係者が・・。
夫達郎が浴槽内に浮いていたというのだ。救急隊が膝まで濡らして引き上げ、心肺蘇生をしているところであった。側には、AEDと呼ばれる電気ショック装置も拡げられていた。
10分程蘇生術が行われた様子だが、気が動転していて、何が何だかわからないうちに隊員の手が止まった様だ。バスタオルと毛布がかけられ、ストレッチャーに乗せられたかと思うと、男と書かれた紫の暖簾が大きく揺れた。
美子も救急車に同乗し、5分位経ったのか、この辺りでは一番大きな国際医療福祉大学附属病院救急救命センターに着いた。そこでも心肺蘇生が引き継がれた様だが、細かい事は知らされず、手を合わせて祈るしかなかった。20分位経ったろうか、若い医師がマスクを外しながら美子の前に頭を垂れた。
「残念ですが・・・・」とだけ一言告げられた時、羽織ってきた旅館の半纏にはひとしずくの涙がこぼれ落ちた。
後日、アジア保険会社宛、美子より傷害保険金5000万が請求された。入浴中の事故として。死亡保険金である。
死亡原因の調査を依頼された関東リサーチ社では早速美子に面談し、現地や病院での調査を開始した。
調査のポイントは、目撃者の有無や滑る・転ぶ等して外傷を受けた様子があるか、さらには、何らかの持病の発作等が起きた可能性がないか等、いわゆるケガなのか病気なのかを明確にする必要があった。
生命保険では、死亡した事実とそれが保険金受取人などによる故意や契約後数年以内の自殺等に該当しないことが確認されるが、今回の請求は損害保険としての傷害保険である。
そのため、疾病による影響がなかったことを確認してからの支払となる。
美子にお悔やみを伝えた調査員の山田は、手始めに、夫婦の前日からの行動や到着してから浴場に向かう迄の様子を尋ねていった。警察での事情聴取ではないのだから、何気ない世間話風に切り出していった。
温泉旅行は良くお二人で・・?と尋ねると「いえ、久しぶりなんです。ちょっとしばらく入院していたものですから、やっと退院できて・・。それで、先生に聞いたら、まあ、一泊程度の温泉旅行なら無理をしなければと言われたものですから」と。どちらか悪くて?「ええ、ちょっと、心臓が悪くて手術を受けたものですから・・」ペースメーカーでも入れられて?「いえ、バイパス手術です。お陰様でもう大丈夫って安心していたんですけど・・」
バイパス手術をしていたとなると、死亡原因は持病に因るものと言うことになるため、この辺りを救命医に確認したところ、持病については把握しておらず、あくまで救命対応のみであった事に終始し、搬送時に撮られた
CT画像を示しながら、胃の内部に貯留した水や肺内に水の浸潤が明かであるとして、死亡診断書の死亡原因欄には“溺水”に○を付けたという。
 溺水という項目は、“不慮の事故”に該当する欄にある為、遺族側としては当然“事故”と認識し損害保険にも請求できるものと解釈することになる。
医師よりCT画像のコピーを入手し、国内最大の画像診断医を抱えるメディカルリサーチ社に鑑定を依頼したところ、死亡の直接原因は心臓に起因し、心肺停止後に水没したために若干の湯水は吸飲したと思われるが、いわゆる溺水、すなわち気道内に水が入り肺に浸潤した窒息死型ではなく、心臓病によるものとの結論に至った。
こうして、保険約款でいう“事故”ではなく“疾病”先行ということになり、傷害保険の対象とはならないことが保険会社側から遺族側に伝えられた。
鑑定内容が明確であったこともあり、遺族側もこれを理解し、訴訟等の要らぬ紛争に至る事無く生命保険金の方を無事受取り暮らしていると聞く。
故人の魂もどこかで美子の幸を支えながら、残された家族の平穏な日々を見守っている事と思う。

【真実を読む】画像鑑定の実際

事故か病気か・・・温泉入浴死の原因解明

夫婦で温泉旅行に行った際、ご主人が大浴場に浮いているのを発見され、搬送先の病院で死亡が確認された。急性心不全発作の疑いが溺死の原因とされているのに死因の種類が病死ではなく外因死のため、事故原因の調査を行うことになる。

救急隊員到着時、心肺停止状態で蘇生処置が行われ、吐水はあまりなかったが、搬送先の診断では急性心不全を疑うも、CT画像で胃部が白くなっているので溺死と判断された。
しかし、吐水が少量であることから、その前に別の原因で死亡した可能性があることが考えられた。死亡後のCT 画像を放射線科医に画像診断を依頼。

画像所見

1、胸部CTでは、胸骨に金属を認め、切除術後の所見を認める。冠動脈の著明な石灰化を認め、3枝病変の存在が疑われる。
2、画像上で胃の中に写っている水平線は水であるが、胃液でもこの程度は存在することがあり大量の水を飲んだ所見とはいえない。
3、また、小腸にはほとんど水はないようであり、気管内にも水を含んだ所見を認めない。

<結論>
死因に関しては、溺死を想定されているが、大量の水を飲み込んだ形跡はまったくない。したがって、水を飲み込む以前に心肺停止状態になったものと考えられる。
心臓には、虚血性心疾患が既往歴として存在したと思われるので、心筋梗塞による突然死が疑われる。

本事案のポイント

(1)画像から心臓冠動脈のバイパス手術後であること
(2)水を飲み込んだ痕跡が認められないこと
などがわかり、心筋梗塞による若しくは先行した死亡の可能性が高いケースであると確認された。胃部の白い部分は空気で、肺には多少の水は確認されたが、疾病先行の死であるというのが医学的に合理性が高いとの結果になり、損害保険では対象外になる旨をご遺族側にもご理解いただけ、円満解決にいたったという事案である。
本件は、画像の専門医である放射線科医で且つ、Ai(死亡時画像診断)にも精通した医師が診断を行うことで、より正確な情報を得ることができた事例である。

【医療行政情報】最近の医療行政、病院のトピックス

情報取扱い業者の過失による医療情報漏洩、医師等は罰しない

厚生労働省は5 月24 日に、「社会保障分野サブワーキンググループ」と「医療機関等における個人情報保護のあり方に関する検討会」の合同会合を開きました。
これまでに、マイナンバーに関連する医療分野特別法の制定に向けて、(1)個別法の必要性(2)個別法の法的枠組み(3)効率的で安全に情報を取得し、利活用することを可能にする法的・技術的仕組み(4)罰則のあり方と、医療等サービス提供側が情報の利活用に萎縮しないための仕組み(5)個別法の位置づけ、適用範囲と履行確保―の5 つの論点が示されています。
今回は、このうち(4)の「医療サービス提供側が萎縮しないための仕組み等」と(5)の「特別法の適用範囲等」の2 点について一体的に議論を行いました。
まず「特別法の適用範囲」については、『生命・身体・健康に関わる情報』を対象とすることに疑いの余地はないが、厚労省当局は「死者の情報にも特段の配慮を払うべき」との見解を提示されました。さらに、匿名化しても、本人識別が不可能とは言い難い場合もあることから、情報の利活用という側面に鑑みた情報の範囲や取扱いを検討する必要があるとの考えも示しています。
また、医療情報には、医師や看護師などにとどまらず、医療事務職や研究者等もアクセスすることから、「資格や業務に基づく規制ではなく、医療等の情報を取扱う者すべてに適用する」ことや、「特別法は小規模事業者に従事する者も対象とする」ことなどを提案しています。
さらに、情報利活用の萎縮を防ぐために、(a)民間だけでなく、行政機関・独立行政法人等を含めた統一ルールを設けて、適用範囲や運用方法を明確化する(b)学術研究目的の場合のルールを検討する(c)情報漏えいや、情報の目的外利用については、取扱者すべてに統一した罰則を定める(d)医師等が善意で行った患者からの情報取得には罰則を適用しない(e)学術研究の場合には、情報取得について罰則を適用しない(f)情報処理業者の過失等で情報漏えいが生じた場合、医師等は罰しない(不備のないことが条件)―ことなどの考え方を提示しています。
なお、罰則については、情報の機微性等に鑑み、個人情報保護法制よりも厳罰化することが提案されました。
[発信元厚生労働省政策統括官付情報政策担当参事官室]