事例6/前十字靭帯損傷は交通事故の受傷によるものか?

交差点を左折する際に、左前方横断歩道の安全を確認するため一旦停止、その後、加速は行わずクリープ現象にて徐行前進していた際、歩行者を目視確認し、慌ててブレーキを踏んだが、運転車両が当該歩行者と接触してしまった。歩行者(被害者)は、本件事故にて右膝をボンネットに打ち当てたと主張し、内側副靭帯損傷、前十字靭帯損傷の受傷。
後遺障害12級13号が認定された。そこで依頼者より当該疾患が他覚的に認められるのか、また、それは事故に起因する病変なのかが争点化した。

果たして

内側副靭帯損傷、前十字靭帯損傷は存在するのか?
事故に起因するものなのか?
事故態様から内側副靭帯損傷は発症するのか?

解剖

膝には関節の内側、外側、中心に、それぞれ内側側副靭帯、外側側副靭帯と2本の十字(じゅうじ)靭帯(前十字靭帯と後十字靭帯がクロスして存在する)の合計4本の靭帯があって、関節が不安定にならないように制動作用を果たしている。

1. 内側側副靭帯

内側側副靭帯は、膝の内側にあり、大腿骨と脛骨を結んで膝の左右へのブレを防止している靭帯である。膝の外側から内側へ強い力が加わり、内側側副靭帯が伸びて強く引っぱられることで損傷が発生する。損傷を受けると、膝関節の内側に痛みと腫れが発生。怪我の度合いが強いほど痛みも強く、膝を外側にひねった時に不安定感を感じる。

2. 前十字靭帯

前十字靱帯(ACL)は、膝関節の中にあって大腿骨と脛骨を結ぶ強靭な紐のようなものである。実際に損傷した場合には、膝の中では30~50ml以上の大量の関節内出血が起こる。

鑑定結果

画像①
内側側副靱帯損傷を認めない。
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画像②
前十字靱帯損傷に関しては、陳旧性変化を疑う。
急性期の前十字靱帯損傷であれば、後十字靭帯のバックリングを認めるはずである。
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MRI画像②では前十字靭帯損傷について先述したような不連続性でゆるんだ靭帯が認められる。これは、事故後3か月弱を経過した際に撮ったMRIですが、陳旧性(過去)の前十字靭帯損傷であると判断された。

また、急性期の前十字靭帯損傷については、それ自体のみが損傷することは通常なく、MRI画像では以下ポイントにまとめた前十字靭帯損傷時の二次所見が頻出して見られる。

本事案のポイント

交通事故受傷による前十字靭帯損傷、内側副靭帯損傷は認められない。
内側側副靭帯についてはMRI画像①の通り、そのものの所見自体確認されなかった。
前十字靭帯損傷においては、損傷を認めるものの、重要なポイントはこれが事故によるものであるのか陳旧性いわゆる事故より前に受傷したものであるのかということである。これらのMRI画像は事故後約3か月弱のものであるが、事故より以前からあった陳旧性の前十字靭帯損傷と診断した。その理由は、通常前十字靭帯を損傷していれば事故後3か月弱であれば未だ同部位が腫脹しているため、MRIに多少の信号異常が見られる。しかし、今回の画像②では、そのような変化が認められない。更に、前十字靭帯損傷における二次所見においても事故後3か月弱の期間で全く認められないというのも不自然である。以下にまとめているが、前十字靭帯損傷のケースでは、頻出してこの二次所見が認められるものである。典型的な例としては、前十字靭帯が大腿骨と脛骨を結ぶ強靭な靭帯であるために、これが損傷した場合には、大腿骨外側顆および脛骨高原背側の骨挫傷、脛骨の前方偏位などが二次所見として認められる。このように二次所見があるか否かは、急性期の前十字靭帯損傷の診断に大きく影響してくる。

【前十字靭帯(ACL)断裂の二次所見(頻出)】

・脛骨の前方偏位(>5mm) =anterior drawer sign
・後十字靭帯のbuckling sign、bowing of PCL=PCLが背側凸に屈曲(たわむ)
・大腿骨外側顆および脛骨高原背側の骨挫傷=kissing contusion
・脛骨高原外側の裂離骨折=Segond fracture